鍵が鍵穴の中でポキリと折れてしまう。それは、想像しただけでも背筋が凍るような、突然訪れる悪夢です。家や車を目の前にして、中に入ることができない。この絶望的な状況で最も大切なのは、パニックにならず、正しい応貧処置を冷静に行うことです。そして、それ以上に重要なのが「絶対にしてはいけないこと」を知っておくことです。多くの人が真っ先に思いつき、そして試みてしまうのが、鍵穴から飛び出している破片をペンチやピンセットで掴んで引き抜こうとすることです。もし、破片が十分な長さで突き出ており、簡単に引き抜けそうであれば試す価値はありますが、多くの場合、破片は鍵穴の奥深くで折れています。この状態で無理に工具を差し込むと、破片をさらに奥へと押し込んでしまったり、鍵穴の内部にある繊細なピンを傷つけてしまったりする危険性が非常に高いのです。そうなると、単なる破片の除去作業で済んだはずが、錠前(シリンダー)全体の交換という、より高額な修理が必要になってしまいます。また、瞬間接着剤をつまようじの先につけて、折れた断面同士をくっつけて引き抜こうとする方法も、絶対に試してはいけません。接着剤が鍵穴内部で固まってしまえば、もはやプロの鍵屋でも取り出すことは不可能に近くなり、確実にシリンダー交換となります。では、何をすべきなのでしょうか。まずは、落ち着いて鍵穴の状態をよく観察してください。もし、鍵穴の入り口付近に破片が見えているなら、専用の「鍵抜き工具」があれば取り出せる可能性はあります。しかし、一般家庭にそのような専門工具があることは稀でしょう。したがって、一般の人ができる最も安全かつ確実な対処法は、何もしないで、すぐに信頼できる鍵の専門業者に連絡することです。下手に手を出すことで状況を悪化させるリスクを考えれば、プロに任せるのが最も時間的にも金銭的にも賢明な判断と言えるのです。