スマートロック市場が成熟するにつれて、製品の選択肢は大きく二つに分かれつつあります。一つは、これまで述べてきた物理キーでも開けられるハイブリッドタイプ。もう一つは、鍵穴そのものが存在しない、より先進的な完全デジタルタイプです。後者は、ピッキングのリスクが原理的に存在しないため、物理的な防犯性においては非常に高いレベルを誇ります。デザインも洗練されており、究極のミニマリストや新しい技術を積極的に受け入れたい層にとっては魅力的な選択肢でしょう。では、私たちはどちらを選ぶべきなのでしょうか。これは、利便性と安心感、どちらの価値観をより重視するかという、個人のライフスタイルや哲学に関わる問題と言えます。物理キーが使えるタイプの最大の価値は、やはり「冗長性」にあります。スマートフォン、物理キー、製品によっては暗証番号や指紋認証など、複数の解錠手段が用意されていることで、どれか一つが機能しなくなっても締め出されることがないという絶対的な安心感を得られます。これは、予期せぬトラブルを何よりも避けたい、安定志向の人にとっては代えがたいメリットです。一方、完全デジタルタイプは、鍵という物理的な存在から完全に解放されるという、より純粋な未来体験を提供してくれます。鍵を持ち歩く必要も、紛失を心配する必要もありません。その代わり、電池切れや故障といったデジタルのリスクを、モバイルバッテリーの常時携帯や、家族への連絡手段の確保といった、別の方法でヘッジする必要が生じます。どちらが優れているということではなく、それぞれに異なる長所と短所があるのです。あなたが玄関の鍵に求めるものは何でしょうか。何があっても家に入れるという確実性ですか、それとも鍵という束縛からの完全な解放ですか。物理キーの要不要を考えることは、自分自身の暮らし方やリスクへの向き合い方を見つめ直す、良い機会になるのかもしれません。