プロの鍵師が使う鍵開けツールは、決して単一の万能な道具ではありません。錠前の種類や構造が多岐にわたるのと同様に、それを開けるための道具もまた、驚くほど多様な種類が存在し、それぞれに専門的な役割が与えられています。これらの道具を理解することは、鍵というセキュリティシステムの奥深さを知ることにも繋がります。最も基本的で代表的な道具が「ピッキングツール」のセットです。これは主に、鍵穴に回転力を加える「テンションレンチ」と、鍵穴内部のピンを操作する「ピック」から構成されます。テンションレンチはL字型やZ字型の金属棒で、これを鍵穴に差し込み、シリンダーに一定の張力をかけることで、ピッキング作業の土台を作ります。ピックには様々な形状があり、先端が鉤状の「フックピック」は、ピンを一本ずつ精密に持ち上げる単独操作(ピンタンブラー錠など)に使われます。先端がダイヤモンド型の「ダイヤモンドピック」は、ピンを持ち上げたり、ディスクタンブラーを回したりと、多目的に使用されます。また、先端が波形やギザギザになっている「レイクピック」は、鍵穴の中を掻き出すように動かすことで、複数のピンを一度に操作し、素早く開錠を試みる際に用いられます。これらは主にピンシリンダー錠に対して使われる道具です。一方で、近年の住宅で増えているディンプルキーのような、より複雑な構造を持つ鍵に対しては、専用の特殊なピッキングツールが必要になります。ディンプルキー用のツールは、複数の方向に配置されたピンを同時に、あるいは個別に操作できるよう、より複雑な構造をしています。さらに、鍵を使わずにドアを開ける技術には、ピッキング以外の手法もあります。例えば、「バイパスツール」は、錠前の内部機構そのものを操作するのではなく、ドアのロック機構(デッドボルトなど)に直接アクセスして解錠を試みるための道具です。これには、ドアの隙間から差し込む薄い金属板などが含まれます。このように、鍵開け道具の世界は、対象とする錠前の進化と共に、常に専門化、高度化を続けているのです。