それは、締め切りが迫る金曜日の午後のことでした。最終確認に必要な契約書の控えを取り出そうと、私はオフィスの共有スチールキャビネットに向かいました。いつも通り鍵を差し込み、右に回したのですが、カチリという軽快な音はせず、鍵は途中で固く止まってしまいました。何度か試みても結果は同じ。まるでキャビネットが頑なに口を閉ざしているかのようでした。最初は自分の力の入れ方が悪いのかと思いましたが、同僚に代わってもらってもびくともしません。中には今日中に必要な書類が入っているのです。焦りがじわじわと胸に広がっていくのを感じました。まず試したのは、鍵穴に潤滑剤を差すこと。幸い、メンテナンス用に鍵穴専用のスプレーがあったので、それを吹き付けてみました。しかし、状況は変わりません。次に、キャビネットの引き出しの隙間にマイナスドライバーを差し込んでみようかという話も出ましたが、キャビネットを傷つけてしまう可能性があり、躊躇しました。時間だけが刻々と過ぎていきます。万策尽きたかと思われたその時、ビルの設備管理を担当しているベテランの社員さんが通りかかり、事情を話すと、彼はキャビネットをじっと見つめ、おもむろに引き出しの側面を何度か強く、しかしリズミカルに叩き始めました。すると、次の瞬間、ガチャンという鈍い音と共に、ほんのわずかにロックが動いた感触がありました。すかさず鍵を回すと、今度はあっさりと開き、私たちは無事に書類を手にすることができたのです。原因は、内部の書類がラッチ機構に引っかかり、正常な動作を妨げていたことでした。この一件で、力任せだけが解決策ではないこと、そして時には専門的な知識や経験がいかに重要かを痛感させられました。あの日以来、私は書類を詰め込みすぎないよう、細心の注意を払っています。