私たちプロの鍵師のもとには、日々様々な鍵のトラブルに関する依頼が舞い込みます。その中でも、意外と多いのが「ロッカーの鍵を開けてほしい」というご依頼です。お客様は、自宅の鍵をなくした時と同じように、我々鍵屋に頼めばすぐに解決するだろうとお考えになることが多いのですが、実はロッカーの鍵開けには、特有の注意点と手順が存在します。まず、我々が現場に到着して最初に行うことは、お客様がそのロッカーの正当な使用者であるかどうかの確認と、そのロッカーの管理者様の許可を得ることです。例えば、それが会社のロッカーであれば、お客様ご本人の社員証などを確認させていただいた上で、上司や総務部の方に「今から鍵師が解錠作業を行いますが、よろしいでしょうか」と、必ず許可を取ります。これは、万が一、第三者が不正にロッカーを開けようとしている可能性を排除し、トラブルを未然に防ぐための、我々鍵師に課せられた非常に重要な義務です。管理者の許可が得られて初めて、我々は道具箱を開きます。ロッカーの鍵は、住宅の鍵に比べて構造がシンプルなものが多いため、多くはピッキングという技術で解錠します。専用のテンションツールでシリンダーにわずかな圧力をかけながら、ピックという細い工具で内部のピンを一つずつ操作し、正しい位置に揃えていきます。熟練した鍵師であれば、数分もかからずに、ロッカーを傷つけることなく解錠することが可能です。しかし、中にはピッキング対策が施されたものや、内部で鍵が折れてしまっているような厄介なケースもあります。その場合は、鍵穴から特殊なカメラを入れて内部の状況を確認したり、鍵の破片を抜き取る専用の工具を使ったりと、状況に応じた専門的な技術と道具を駆使します。また、ダイヤル式の番号忘れの場合も、専用の道具で番号を検索したり、最終手段として錠前を破壊して開錠したりすることもあります。いずれにせよ、ロッカーの鍵開けは、単なる技術だけでなく、厳格な本人確認と管理者への許可という、社会的なルールに則って行われる、責任の重い仕事なのです。
鍵屋が教えるロッカー鍵開けの現場