私が自宅に物理キー対応のスマートロックを導入して、その恩恵を最も強く感じたのは、ある冬の寒い夜のことでした。その日は朝から外出しており、スマートフォンの充電が残りわずかであることに気づいてはいたものの、モバイルバッテリーを忘れてしまい、どうにかなるだろうと高を括っていました。しかし、案の定、帰宅途中の電車の中でスマートフォンの電源は完全に落ちてしまったのです。自宅の最寄り駅に着いた時、ポケットを探ってもカバンを探っても、デジタルな鍵を開ける術はどこにもありません。もし、我が家の鍵がスマートフォンでしか開けられないタイプだったらと想像した瞬間、背筋が凍る思いでした。真冬の夜に家に入れず、家族の帰りを待つか、あるいは高額な費用を払って鍵屋を呼ぶしかありません。しかし、私の胸ポケットには、いつものように物理キーの収まったキーケースがありました。その存在を思い出した時の安堵感は、今でも忘れられません。玄関のドアの前で、私は慣れ親しんだ金属の鍵を鍵穴に差し込み、カチャリと音を立てて回しました。いつもはアプリでスマートに開ける扉を、あえて原始的な方法で開ける。その行為が、これほどまでに心強く感じられたことはありませんでした。この一件以来、私にとって物理キーは単なるバックアップ以上の存在になりました。それは、どんなデジタルのトラブルが起きても、必ず我が家に帰ることができるという、揺るぎない「お守り」のようなものです。スマートロックがもたらす日々の快適さはもちろん素晴らしいですが、その土台には、こうしたアナログな安心感があってこそだと痛感しました。便利さを享受しつつも、最悪の事態を想定して備えておく。物理キーが使えるスマートロックは、まさに私の暮らしにとって、かけがえのない保険のような存在なのです。
スマホの電池切れでも慌てない暮らしの保険