日産のサービス工場で長年多くの車両を診断してきた整備士の言葉によれば、鍵マークによるエンジン始動不能は、実は故障ではなく「正しい作動」であるケースが非常に多いといいます。イモビライザーというシステムは、鍵に埋め込まれたトランスポンダと呼ばれるチップのIDと、車体側のコンピューターに登録されたIDが一致しなければ絶対にエンジンがかからない仕組みになっています。これは高度な盗難防止機能ですが、その照合プロセスは非常にデリケートです。整備士が語る中で興味深かったのは、スマートフォンのケースに入れた磁石や、他の車のリモコンキーが近くにあるだけで、電波が干渉してエラーになることがあるという点です。お客様から「急にかからなくなった」と連絡を受けて駆けつけると、単にキーをスマホと同じポケットに入れていただけだったという事例が少なくないそうです。このような物理的な干渉を除去するだけで、鍵マークが消えて元通りに動くようになります。また、整備士が指摘するもう一つのポイントは、近年の日産車に採用されているステアリングロックの構造です。一時期、特定の車種でこのロック機構が解除できなくなるというトラブルが多発し、鍵マークが出て始動不能になる事例がありました。これは電気的な信号を受けて動くモーターの固着や基板のハンダ割れなどが原因で、防犯上の理由からハンドルが固定されたままだとエンジンをかけさせないという制御が働きます。整備士は専用の診断機を車に接続し、どの部分で通信が途切れているかを数値化して特定します。鍵の登録情報が何らかの原因で消去されることは稀ですが、落とした時の衝撃でキー内部のチップが破損することもあり、予備の鍵を持っていればそれが本体の故障なのか鍵側の故障なのかを判断する材料になります。現場の整備士から見れば、鍵マークは車からのSOS信号のようなものです。単に「壊れた」と嘆くのではなく、いつ、どのような状況でマークが出たのか、その詳細を伝えることで、修理の時間は大幅に短縮されるといいます。日々のメンテナンスとして、電池交換を二年に一度、車検ごとに勧めているのは、こうした出先での突然の立ち往生を未然に防ぎたいという、現場ならではの願いが込められているのです。通信異常の原因を深掘りすると、鍵側のチップが発するコードがローリングコードと呼ばれる、使用するたびに変化する動的なものである点も重要です。これにより、電波を傍受して複製する「リレーアタック」などの手口に対抗していますが、稀に車両側とキー側でコードの同期がズレてしまうことがあります。この同期のズレは、ボタンを何度も無駄に押したり、長期間使用しなかったりした際に見られることがあり、再登録作業が必要になる場合もあります。また、鍵マークの点灯と同時にシステムが「セキュリティロックモード」に移行すると、正しい鍵を使用しても一定時間受け付けなくなることもあります。さらに、日産車のイモビライザーは、エンジンコントロールユニット、BCM、インテリジェントキーユニットといった複数のコンピューターが相互に監視し合っており、これらをつなぐCAN通信と呼ばれるネットワークにノイズが入った場合でも、警告灯が点灯する仕組みになっています。
日産の整備士に聞く鍵マークとイモビライザーの秘密