三年間住み慣れたアパートを離れることになり、引っ越し作業も終盤に差し掛かった頃のことです。管理会社の担当者による退去立ち会いまで残り三時間というタイミングで、私は背筋が凍るような事態に直面しました。入居時に三本渡されたはずの鍵が、どうしても二本しか見当たらないのです。普段使いの鍵と、棚の奥にしまっていたはずの予備の一本はありましたが、もう一本、どこかに置いた記憶すら曖昧な予備が見当たりません。 段ボール箱をすべて開け、クローゼットの隅々から排水口の周りまで必死に探しましたが見つかりません。時計の針は無情にも進み、私の心臓の鼓動は早まるばかりでした。もし一本でも欠けていれば、高額なシリンダー交換費用を請求されるという噂をネットで見ていたからです。引っ越し費用で貯金が底をつきかけていた私にとって、数万円の急な出費は死活問題でした。絶望感の中で私は、ふと半年前の大掃除の際に古いカバンを捨てたことを思い出しました。おそらく、そのカバンのポケットに入れたまま処分してしまったのでしょう。 立ち会いの時間がやってきました。インターホンが鳴り、管理会社の担当者が現れたとき、私は正直に話すべきか、それとも「最初から二本しか受け取っていない」と言い張るべきか、一瞬だけ迷いました。しかし、入居時のチェックリストにははっきりと三本と記されています。私は観念して、鍵を一本紛失してしまったことを正直に伝えました。担当者の方は一瞬だけ困ったような顔をしましたが、すぐにタブレット端末を取り出し、規定の清算費用を確認し始めました。 「正直に仰っていただき助かりました」と、意外な言葉が返ってきました。実は、紛失を隠して退去し、後から発覚するケースが一番困るのだそうです。その場合、次の入居者のために急いで鍵を変えなければならず、緊急対応費などの余計なコストがかさむこともあるとのことでした。私の場合は事前に申し出た形になったため、通常の交換費用のみの清算で済みました。幸いにも加入していた家財保険の特約が使えることも教えていただき、最終的な自己負担は数千円で済みました。 あの時の冷や汗と絶望感は、今でも忘れられません。鍵という小さな存在が、これほどまでに重い責任を伴うものだとは思いもしませんでした。新しい住居では、受け取ったその日にすべての鍵に番号を振り、定位置から絶対に動かさないようにしています。鍵の管理は住まいへの敬意であり、自分自身の信用を守ることそのものであると、身をもって学んだ一日でした。
退去直前に鍵が一本足りないことに気づいた私の冷や汗体験記